残暑の厳しい8月28日、桶川市民ホールのチューニングコンサートがありました。客席を満席にした状態で音響テストを行い、11月のオープンまでに音響調整を行うためです。普通のコンサートと何より違うのは、客席の所々に等身大の人形が座っていることと、工事関係の方々がキョロキョロとまわりの壁からのはね返り音をチェックしたり、ペンを動かしてアンケート用紙に記入していることで、まるで久々に演奏審査を受けているような気持ちになりました。この人形の両耳にはマイクが入っていて、人間の耳で聞くのと同じ条件で録音をしているのです。
このホールは演劇用にも作られており、多目的ホールならぬ二目的ホールです。
ステージから客席を見ているとシュトゥットガルトのシャウピール・ハウスを思い出しました。ドイツには歌劇場(オペラ・ハウス)の隣にたいてい小ぶりの演劇劇場(シャウシュピール・ハウス)が建っていて、普段は演劇用ですが、小さなオペラやオペレッタにも使われ、時にはオペラハウスの改装中に活躍するのです。桶川のホールは会場の雰囲気がドイツのそれにとても似ている印象を受けました。
演劇用とコンサート用ではホールの残響時間の設定だけでなく、客席の高低差が大きく異なります。演出家の蜷川幸雄氏も言われるように「芝居小屋はどの席からもステージ全体を見渡せたい」ので当然の事ながら、前の人の頭や肩が視界をさえぎらないように前後の座席に高低差がつけられています。ステージに立つと全てのお客様の胸あたりまで見えるのです。
このホールは、4月の総会でお話し下さった永井氏が勤務されているTAK建築・都市計画研究所の設計で、残響時間を演奏モード、コンサートモードA、コンサートモードBの3つに設定できるようになっています。それぞれの音の残る時間が異なるので同じ曲を演奏してもAとBでは曲作りが違ってきます。今回はオペラ「ジャンニ・スキッキ」の『いとしいお父様』を両方のモードで2回演奏しましたが、私もピアニストも残響時間が少し長いBの響きの方が好きでした。またどんなホールでもお客様が入っていないリハーサルと本番では響きが異なるので、瞬時に判断して曲作りを変えたりすることもスリリングな楽しみの一つです。
ちまたによくある、いわゆる多目的ホールはいわば演劇モードで設計されていて、ステージの上に反射板がなく、照明器具を目隠しする黒いカーテンなどに音が吸収されてしまいます。演劇とコンサートの二目的を達成していれば、あとは講演会にだって多目的に利用できるのですから、この桶川市民ホールの考え方を地方都市の公民館などに取り入れていただければと思います。
演奏会の後、TAKの代表・柳澤孝彦氏に別室に呼ばれ、演奏者側からの感想など、いろいろな質問を受けました。初めてお目にかかる柳澤氏のお顔はなんと録音用の人形の顔そのもので、実は柳澤氏に似せて作られたそっくりさん人形だったのです。
こうして演奏審査の後、面接試験も受けて家路についたのでした。なお、このホールを含む建物の愛称が“響の森(ひびきのもり)”と決まったとの事。これもご縁ですね。
ひとこと
- 響の会通信 号外 2007.10
- 響の会通信 号外 2005.11
- 響の会通信 vol.14 2003.6
- 響の会通信 vol.13 2002.11
- 響の会通信 vol.12 2002.5
- 響の会通信 vol.11 2001.11
- 響の会通信 vol.10 2001.5
- 響の会通信 vol.09 2000.12
- 響の会通信 vol.08 2000.6
- 響の会通信 vol.07 1999.11
- 響の会通信 vol.06 1999.5
- 響の会通信 vol.05 1998.10
- 響の会通信 vol.04 1998.5
- 響の会通信 vol.03 1997.10
- 響の会通信 vol.02 1997.4
- 響の会通信 vol.01 1996.10