池田京子さんの魅力
    雑喉 潤 (音楽ジャーナリスト)          Essayへ戻る

「松尾葉子と仲間たち」というコンサートを催したことがある。1996年初夏を現時点として約3年半前、浜離宮朝日ホール・開館イヴェントの一つだった。
 前半をフランツ・レハールのオペレッタ珠玉集、後半をリヒアルト・シュトラウスの管弦楽という趣向にした。松尾さんはオペレッタ・アリアを歌う人を「池田京子」と指名した。正直いってわたくしは池田京子という人をまだよく知らなかったが、松尾さんの指名は一議に及ばずといった断固としたものだった。
 「ヴィリアの歌」や「いま一度故郷を」などを歌う池田さんから、わたくしは馬力の強い高性能のエンジンを備えた戦闘機のような印象を受けた。
 突飛なたとえみたいだが、コンサートで歌う歌手には航空機と同じように、離陸?飛翔?曲技?着陸のパフォーマンス力が要求される。とりわけステージへの登場から第一声までの、離陸から飛翔に移る瞬間が重要である。池田さんは軽々と大空に舞い上がり、いきなり充実した声を出した。あとの妙技は思いのままである。
 その後、何回かリサイタルを聴き、池田さんが馬力だけでなく、個々の作品を歌い分けることの出来る繊細な感覚の持ち主であることを知った。
 紙に封じ込められている作品を、声によって再現する歌手にとって「歌い分け」は重要な才能だが、池田さんは細心の工夫を、巧まぬ愛敬の奥に秘めて、ごく自然に表現し、いつの間にか客席を楽しい雰囲気に導いてゆく。
 松尾さん、池田さん、それにヴァイオリンの大谷康子さんは、抜群の表現力を持った女ざかりの名手たちである。三人とも名古屋出身であるのが、大河ドラマの「秀吉」に拮抗しているようで楽しいが、さらに大きく国際的に羽ばたいてほしい。

 左から松井さん、事務局の西田さん、雑喉さん
                                  (設立総会後の懇親会にて)