エッセイ

以身伝心

松井 和彦/作曲家・オペラ指導者

2001.05

松井 和彦(作曲家・オペラ指導者)
松井 和彦(作曲家・オペラ指導者)

私は大学院等で多くのオペラ歌手の卵達に指導していますが、その際強く主張することは「以心伝心」ならぬ「以身伝心」であります。仏教的感覚から言えば身体を動かしたり、特定の形にすること等、刺激を加えることによって音楽を伝えようとするのは「邪道」と思われるかもしれませんが、西洋の音楽のように拡散型の芸術は、演奏者が内面的に感じることで観客に伝えるという発想は、地味な、暗い結果を招きます。
皆さんは、「ナチュラリスト(自然主義者)」の反対語は何だと思われますか?「アンナチュラリスト(不自然主義者)」ではありません。じっくり考えてからご覧下さい。正解は文末にあります。…………つまり芸術とは「自然発生的なもの」ではないのです。(といって「不自然なもの」でもありません)
と、まあこんな調子で、眼を輝かせて聞いてくれたり、この人何を言っているんだろう?という顔をして聞いている卵さん達と毎日実習している私です。
京子さんのステージを拝聴、拝見して、彼女は実にいいバランスで「以身伝心」を実行なさるアーティスト(人為主義者)であると分析するのは穿った見方でしょうか?このバランスのよさが、彼女のファンの皆さんが知的水準が高い(失礼!)事と密接な関係があると私は読んでおります。
恐らく会員の皆さんの中でも最も早く、つまり文化庁のオペラ研修所時代から京子さんの歌を知っている一人と自負する私には、京子さんが研鑽の過程で前述の点に関し、理想的な発展を遂げて今日に至られたように思えてなりません。京子さんがこれからも益々多くの人を惹きつけていかれることを期待し、確信しております。正解:「アーティスト(人為主義者)」